連載第1回:アジャイル開発のソフトウェア開発モデル契約書

連載第1回:アジャイル開発のソフトウェア開発モデル契約書

メンバーズエッジカンパニー 社外アジャイルコーチの中野 安美です。

今回より5回にわけてアジャイルにまつわるお話をブログ形式で寄稿させていただく事となりました。
第1回目は「アジャイル開発のソフトウェア開発モデル契約書」についてお話させていただきます。

アジャイル開発のモデル契約書が、「IPA(独立行政法人情報処理推進機構)」と「情報処理学会・情報処理に関する法的問題研究グループ(略称:LIP[Legal issues concerning Information Processing])」から発表されています。
私は、情報処理学会LIPグループに2017年より参加して、アジャイル開発のモデル契約書の検討に携わってきましたので、こちらを中心にご紹介いたします。

どのように検討してきたのか

アジャイルやスクラムについてアジャイル開発を実践しているメンバーから弁護士の方へ説明するところからスタートし、1~2ヶ月毎に打合せを重ねながらモデル契約書を検討してきました。アジャイル開発経験者と弁護士の視点が盛り込まれた内容になっています。

モデル契約書の前提

発注側・受注側の体制や委託内容によって契約内容も変わってきますので、今回は一般的によくあるユーザー企業(発注側)が社外ベンダー(受注側)を活用してプロダクト開発するケースを前提としています。

モデル契約書のポイント

今回のモデル契約書を検討するにあたり、盛り込んだ点や配慮したことなどをご紹介します。

準委任契約をベースとしました

アジャイル開発は、開発初期から要求事項の全体が決まっているわけではなく、成果物も決めることができません。短期間のタイムボックスで反復プロセスを繰返して開発していく中で、優先度の高い要求事項をプロダクトオーナーが決め、成果物として何をアウトプットするかをプロダクトオーナーと開発チームが毎スプリントで合意により決めていきます。そして、成果物のフィードバックをもとにプロダクト戦略を⾒直す、つまり開発する要求内容が見直され続ける特性を持ちます。
このような開発⼿法の特性から本契約は準委任契約をベースとしました。

「スクラム」を取り入れました

アジャイル開発において、多くのプロジェクトが取り入れている「スクラム」を採用し、契約書に盛り込んでいます。これにより実態にあわせたロール、イベント、成果物が契約書面にあらわすことができ、紛争時において各ロールの責任や協力義務などを明確にすることができるようになりました。

契約当事者とプレイヤー(スクラムのロール)の関係を整理しました

アジャイル開発では、開発チームにも発注者側メンバーが加わるなど実際のチーム体制内では、受発注者が混在するケースが多くあります。そこで契約当事者が、スクラムの各役割を履行するために適任なプレーヤーを選任し、履行させる義務を負うという形にしています。

持続可能な協力関係を引き出すこと

従来の請負開発契約では、1つのプロジェクトが終わるまでの有期的な判断になりがちです。しかし、アジャイル開発は継続してこそ、よりパフォーマンスの高いチームを育み、よいプロダクトを提供し続けることができます。
契約書 第3条プレイヤーの選任とロール(役割分担)には次のように記載されています。

「上記の目的達成のため、各当事者は、本条の規定に従って、本件プロジェクトのプレイヤーを選任し、双方の信頼関係を維持しながらその役割を履行させる。なお、本条で規定された役割分担は、当事者双方が役割を超えて協力することを否定するものではない。」

http://www.ipsj.or.jp/sig/lip/LIPagileDevelopmentContractDoc20200607.pdf

この「目的達成するために、役割を超えて協力しあうことを否定しない」という点が、チームの一致団結を促すことができるとても気に入っているポイントです。

紛争解決機能や紛争予防機能を意識しました

契約書の機能として、3つの機能があると弁護士の先生からお話しがありました。

  1.  紛争予防機能:合意内容を明確にして紛争を予防する
  2.  紛争解決機能:紛争となった際の責任所在など判断の拠り所とする
  3.  違反抑止機能:当事者の違反を抑止する

わたしも長い開発経験の中では紛争に至ったこともありましたが、裁判とは立会人に入ってもらい大人同士でケンカしているようなものなので、できれば紛争になる前に円満に解決したいものです。そして、できれば揉めることなく協力して遂行できる状態を維持できるのがベストです。

もし紛争となった場合、裁判官もシステム開発について専門用語含めて詳しくないケースが多く、その場合は専門員が入る場合もありますが、専門員もホスト開発しか経験のない現役を引退した方など、アジャイル開発について知っている方はほぼいないのではないかと思われます。まずはアジャイル開発を理解していただくところから始まり、難航することが予想されるので、いかに「紛争予防」「違反の抑止」を行えるかが重要になるでしょう。

IPAとLIPの共通点と違い

IPAとLIPの共通点は、「準委任契約」「スクラムをベース」としている事になります。また、受発注の体制においてはプロダクトオーナーを発注側から選任する前提としたモデル契約としています。

大きな相違点としては、スクラムに関する要素をIPAは契約書から外だしにして参照する形式とし、LIPは契約書に盛り込んでいます。そういう意味では、LIPの方がより契約書上で各役割における善管注意義務や協力義務といったものを具体化して記載されていることになります。これはLIPで参加されていた弁護士の方が意識されていた点で、裁判官が判断しやすいようにと契約当事者や各役割の責任範囲が契約書に記載されています。

また、IPAには「契約前チェックリスト」が掲載されています。アジャイル開発でおきるトラブルの多くは、アジャイルを理解されていないまま開発スタートしているケースが多くあるように思います。
このチェックリストを活用して、発注者と受託者がアジャイル開発を始められる状態か、契約締結してよい状態か、を確認することでトラブルを軽減できると思いますので、ぜひご活用いただければと思います。

最後に

今回、LIPでアジャイル開発のモデル契約書を発表しましたが、より活用していただけるようにブラッシュアップしていきたいと思っています。ぜひ実際にご活用いただき、ご意見などフィードバックいただけますと幸いです。

「情報処理学会・情報処理に関する法的問題研究グループ」
(前文)http://www.ipsj.or.jp/sig/lip/LIPpreamble202006007.pdf
(アジャイルモデル契約書)http://www.ipsj.or.jp/sig/lip/LIPagileDevelopmentContractDoc20200607.pdf

「IPA(独立行政法人情報処理推進機構)」
https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20200331_1.html

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